名古屋大学

アフリカ稲作研究イノベーションのための
研究拠点と国際協働ネットワークの構築
Development of Research Platform and International Network for Rice Research Innovation in sub-Saharan Africa

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概要

  サブサハラアフリカ(SSA)では、人口増加や食生活の変化を背景に1990年代後半以降コメの需要が急増しています。急増する需要に国内生産が追いつかず、SSAのコメ自給率は約55%に留まっています。今後も都市化の進展に伴い、他の穀物に比べて調理が比較的簡単で栄養価に富み食味の良いコメの消費はさらに伸びていくことが予想されるため、コメの増産はSSAにおける食糧安全保障上の重要課題です。SSAにおけるイネ収量は、2.1 t ha-1とアジアの約半分に留まっています。SSAに適したイネ品種を開発し、その能力を最大限に発揮させる栽培技術を組み合わせることによってSSAの生産ポテンシャルを引き出すことが出来れば、大幅な増産が可能となります。

  近年、遺伝育種学の進歩により、作物生産上有用な様々な形質とそれらに関与する遺伝子が明らかにされ、目的とする遺伝子を持った個体を効率的に選抜し品種を作り出すことが技術的に可能となっています。しかしSSAでは、品種改良と栽培技術開発を行うための施設・設備と技術が不足しており、多様なSSAの稲作生態系に対応した品種改良とイネ品種の能力を最大限に発揮させる栽培技術の開発は遅れているのが現状です。

  名古屋大学農学国際教育研究センターおよび協力機関は、これまでに様々なサポートを受け、イネ品種の特性評価とイネの交配を大量に行うための施設・設備をケニア農畜産業研究機構ムエア支所に構築し運用するとともに現地の環境ストレスに強い遺伝子を持つ有望イネ系統をDNAマーカー利用により開発してきました。しかし、栽培の現場で発揮されるストレス耐性や生産性は、品種のもつ遺伝的要因だけで決まるわけではなく栽培環境および栽培管理による影響を受けて変化するため、様々な条件下での栽培試験を行い遺伝子の機能発現を評価する必要があります。

  本プロジェクトでは、複数国の多環境における連絡栽培試験の実施を可能とする国際研究協力ネットワークの構築に取り組んでいます(図1)。すなわち、イネ育種と栽培技術開発のための施設・設備と有望イネ系統を有するケニア農畜産業研究機構ムエア支所を日本のサブサハラアフリカにおけるイネ研究の拠点として機能させるとともに、国際稲研究所およびアフリカ稲センターとの連携を強化し、東南部アフリカを中心とする共同研究体制を構築しています(図2)。具体的には、以下に示した共同研究、セミナー、研究者交流を行っています。

共同研究

① 遺伝的形質×栽培環境×栽培管理の相互作用解析を通じた品種改良および栽培技術開発
これまでに作出した有用遺伝子導入イネ系統を用いて、遺伝的形質×栽培環境要因×栽培管理技術の相互作用を解析し、SSAに適した新品種の開発を進めると共に、品種の能力を発揮させる最適な栽培方法の開発に取り組む。

② 衛星リモートセンシング技術を用いた肥培管理法の確立
ケニアの現地主力イネ品種のバイオマスや葉面積指数(LAI)を可視画像および分光反射データから高い精度で予測する経験的モデルを開発し、アフリカ灌漑稲作地帯での衛星リモートセンシング技術を用いた効率的な肥培管理法の確立を目指す。

セミナー

初年度には、ブルンジにおいてキックオフセミナーを国際稲研究所と共催する。主に東南部アフリカのイネ研究者を招へいし、各国におけるイネ研究の現状と展望について情報共有を図るとともにネットワークを活用した研究開発活動のロードマップを作成する。2年目には、名古屋において育種の進捗と方向性を確認するためのワークショップを開催する。また、ケニアにおいてネットワーク形成の進捗状況と活動方針について協議するためのワークショップを開催する。最終年度には、プロジェクトの成果を報告するための国際セミナーを開催する。

研究者交流

日本人研究者がアフリカの参加国を訪問し、現地での調査研究活動に参加することにより、技術移転を図る。また、アフリカの研究者を日本に招へいし、研究成果の報告や意見交換を行う。日本の若手研究者および大学院生を現地に派遣し共同研究に参加させることにより、現地調査ならびに現地圃場試験に関する技術および知識を習得させる。特別講義などを相互に行い、理解を深める。

概念図1
図1
概念図1
図2